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自主研というすべての管理職が変革型の人材に育っていったということではない。

しかし、Tがつくってきた当初の自主研は、明らかに「明日の準備をする」ための仕組みとして機能し、狙いとする人材を生み出してきていた。 そういう人材が世代を重ねて育ってきたことで、固有の強みであるDNAもまた、すたれることなく受け継がれてきたわけである。
をみんなで真剣に議論するために、必要に迫られてできた場である。 読んで字のごとく、本当に自主的な集まりだったのである。
したがってノルマもない。 後に他社で展開される、自主研とは名ばかりのノルマを持ったそれとは根本的に違うものだったのである。
知恵を鍛える場というのは、管理され、強制される場であってはならない。 もちろん、当時の自主研でもすべての監督職が参加するのだから、人によっては嫌々ながらやる場合もあったに違いない。
しかし、自分で日程を選択できることやノルマがないことが、その場に対する抵抗感を軽減するという意味でかなり重要な要素になっている。 参加者同士がより深く知り合える場であることなども肯定的に受け入れられやすい側面だろう。
学習する場としてみれば、事実を目の前にしてみんなで丸一日かけて議論をするし、理解を深める手助けをしてくれる適切な指導者もいる。 これ以上ないくらいに条件の整った場である。
毎回、メンバーが違うわけだから、いやがおうでも、いろんな人とコミュニケーションをとることになる。 また、現場の現象面のみで問題をとらえるのではなく、本質にまでたどっていく力を身につけることは、会社生活や仕事をより意味のある楽しいものにすることでもある。

そういう性格を持つがゆえに、当初の自主研は、なかには嫌々ながら参加している人を含みつつも、日を追うごとに形だけのものになってしまう、ということにもすぐにはならなかった。 そうやって知恵が鍛えられる中身を失わずに一定期間続けられてきたことが、Tの進化のDNAを脈々と受け継いでいくことに非常に大きな力を発揮した、とSは考えている。
一九八六年、アメリカの日本生産性本部にいた今井正明氏が英語で発刊した『KAIZEN』という本が大ベストセラーになった。 アメリカからさらにヨーロッパまで席巻し、その邦訳が日本でも出て結構売れた。
そこですっかりKAIZENという言葉が世界的に定着してしまった。 実はこの本で書かれたKAIZENの中身は何かと言うとTQCとTPM、あるいはTIEの話である。
KAIZENという言葉が世界的に認知された時点で大きな影響力を持ったが、日本で言う「改善」とはこういうレベルのものだと受け止められ、その延長線上でリエンジニアリングとBPR、サプライチェーン・マネジメントとTOC(制約理論)といったアメリカ流の経営変革手法へと応用され、今日に至っている。 経営変革の概念としては、英語ではイノベーション(革新)とインプルーブメント(改良)しかない。
KAIZENは基本的にはインプルーブメントの手法の一つと考えられた。 たしかに、戦後ほとんどの日本企業で展開された「改善」活動の実態は、不具合対策であり、現状のシステムを「より良く」機能させるための「インプルーブメント」(負けないための改善)であった。
これに対して、Tの「改善」は、現状のシステムを新システムに変化させる活動、今までの考え方をくつがえす「常識はずれ」の活動であり、「日本的イノベーション」(勝つための改善)とも呼べるものなのである二つある。 一つは、現状の「知識・技能」をベースに考え、「問題点をつぶす」改善活動で少しずつよくする帰納法である。
これは「負けないための改善」で、ナレッジマネジメントの話だ。 もう一つは、最初から高い目標を掲げて、発想を変えて知恵を出すことで目標に限りなく近づく演鐸法である。
これが「勝つための改善」である。 常識はずれの目標を掲げ(不良率○・五%)、それに限りなく近づく(直行率一○○%という)コンセプト展開をすることによってブレークスルーして、新システムを創り出すわけである。
「負けないための改善」では業界レベルのところでどうしても止まってしまうが、これを超えるために知恵を出さなければいけないというイノベーションの話を日本的にやる。 アメリカでのイノベーションというのは、ラージステップとかビッグステップとかと呼ばれるものだ。
P・F・Dは『創造する経営』のなかで、企業の現実として「エグゼクティブが未来に対し、十分な時間と思索を割いていない」と述べ、「明日をおろそかにしているのは、今日のことを放っておいては先に進めないからである」と指摘している。 さらに「未来は明日つくるものではない。

今日つくるものである。 主として今日の仕事との関係のもとに行う意思決定と行動によって今日つくらなければならない。
逆に、明日をつくるために行うことが直接、今日に影響を及ぼす」と述べションというのはスモールステップで、小刻みにものにしていく形で積み上げていくのだ。 これを展開したのがO方式だというわけである。
未来は明日つくるものではなく、今日つくるものである。 明日をつくるために行うことが今日に影響する。
実はこの二つのテーマが経営上では最も実践が難しい課題である。 企業は「今日の業績」を上げる活動と「明日の準備」をする活動を同時併行的に進めなければならない。
しかしわかっていても、経営陣、管理職層がこれを実現するのは現実問題として非常に難しい。 「目の前で火事が起きているときにはそれを消すことが先である」というのが普通の企業の取り組み姿勢であろう。
今日のことが放っておけない以上、明日のことは当然「先送り」になる。 こんなときに「明日の準備」への活動を強行すれば必ず「今日の業績」に悪影響を及ぼす。

したがって企業経営における基本的課題は「今日の業績」向上と「明日の準備」とのトレードオフの関係をどのように解決するかである。 これは具体的には「組織と人事」のあり方の問題となる。
一般的にはピラミッド型組織は「今日の業績」向上のためにつくられており、「明日の準備」への活動はうまく機能しない。 そこで「明日の準備」への活動を実現するための一つの方法は、フレキシビリティのある新しい組織形態につくり変えることである。
この道を選んで成功した代表的な企業がアメリカのGEである。 もう一つの方法は、このフォーマルなピラミッド型組織を基本としながらそのなかに、「明日の準備」への活動が自主的に起きるようなインフォーマルな組織(仕組み)を組み込むことである。
Tは世界の企業に先駆けてこの仕組みをつくり上げたと言える。 Kは、TとGEは驚くほどその進化の過程が類似しているととらえている。
しかしその一方で、TとGEはやはり根本的に異なる。 企業が変わるとは、その企業のシステムが変わることを意味する。
システムは、ある条件下において機能しているわけであるから、当然のことながらシステムを取り巻く環境条件が変化すれば、環境変化に対応してシステムも変化せざるをえない。 「システムを変化させる」ということは、今までのシステムのなかで常識としてきた考え方、ルール、行動規範などの変化を要求される。

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